運動をする事で病気・障害の症状を改善、予防を行う事を運動療法といいます。
慢性的な痛み(腰痛や膝痛、股関節痛、肩痛など)をお持ちの方が痛みの軽減目的や、痛みがあっても生活の中で出来る事を増やしていく目的で運動をしていく事も運動療法になります。
今回の目的は慢性痛の方が運動療法をされていくうえで気をつけなければいけない点や、よく起こってしまう問題点などを挙げていくことで、慢性痛の方が運動をされる時に参考にしていただければと思います。
*また、病院などの医療機関で整形外科疾患のリハビリをされているリハビリスタッフの先生方や治療院などにお勤めの先生方にもご参考になればと思います。
病院でのリハビリが終了してから慢性痛をもった患者さんがその後、運動を継続してどのような経過をたどっているのか?
また、週1回の外来リハビリや施術など、通院で自主トレを指導しますよね。自主トレって、その場では出来ているけれど、確認すると帰ってからではしっかり出来ていないことが結構多いです。
これらは、普段、病院や治療院勤務の先生方は知る事が出来ない事ですね。
当院の場合、施術の通院+併設スポーツジムでの運動で週に何度か顔を合わせます。その都度に状態を確認できます(運動の仕方も)。
運動療法をしている方の経過を長期的かつ頻度も多く診る事ができます。
その経験から普段、病院などの医療施設で働かれているリハビリスタッフの先生や治療院などで働かれている先生にも患者さんが自分で運動していくにあたりどのような事に気をつけていかなければならないか参考にしていただければと思います。
1:運動療法で起こる良い事
1-1 痛みの軽減・予防
1-2 生活習慣病の予防・改善
1-3 精神面への影響
1-4 癌への影響
2:運動療法を行ううえでよく起こる失敗・気をつける点
2-1 ペーシングが出来ていない
2-2 運動負荷・量が大きい
2-3 痛みが改善してからおこす失敗
まとめ
1:運動療法で起こる良い事
まず運動療法でおこる良い事を簡単に復習していきます。
1-1 痛みの軽減・予防
運動を行う事で血流がよくなるので硬くなっていた筋肉がほぐれる事により、筋性の痛みが改善されます。
また、ストレッチも筋肉の柔軟性を改善する効果があります。
筋力増強訓練、筋力トレーニングも大切です。筋力が弱い事で姿勢が歪んでしまったり、関節が不安定になり痛みの原因になります。それらを改善、軽減する事ができます。
1-2 生活習慣病の予防・改善
生活習慣病の予防・改善にも一役買います。医師の先生からも運動しなさいといわれている方、多いのではないでしょうか?
高血圧や糖尿病の予防、改善。血中コレステロールを下げるなど。健康の為には無くてはならないですね。
1-3 精神面への影響
精神面にも運動は良い影響があるんです。
ストレスを軽減する作用があります。うつ状態の重症度を改善すると言われております。
引用文献:中外医学社、慢性疼痛診療ハンドブックより
1-4 癌への影響
運動は乳がんや前立腺がんによる死亡率を減少させます。
引用文献:中外医学社、慢性疼痛診療ハンドブックより
2:運動療法を行ううえでよく起こる失敗・気をつける点
2-1 ペーシングが出来ていない
ペーシングとは言葉の通り、運動のペース配分の事です。主に運動の量・負荷の事になります。
慢性痛をお持ちの方がよくおこす失敗例は「0か100」の極端な思考です。
つまり、運動をしようと思い立って、頑張りすぎてしまう事です。100パーセント頑張ってしまい、やり過ぎてしまい痛みを悪化させてしまいます。
そして、痛みが悪化してしまうと「自分には運動はダメだ。」と何もしなくなる(0になる)。→この「0か100」の流れを繰り返しやすいです。
このペーシングの配分が上手く出来ていない方の特徴としましては、運動をやればやるほど痛みが良くなると考えている方が多いように思います。
運動自体は身体に負荷をかけることなのでやり過ぎてしまうと身体が先に悲鳴をあげます。まして、もともと慢性的な痛みをお持ちの方は負担がかかりやすいのでなおさらなんです。
このグラフを見てください。
引用文献:中外医学社、慢性疼痛診療ハンドブックより
これから分かる事は腰痛の発生リスクは運動をやり過ぎても、やらなさ過ぎても高いということなんです。
大事な事は軽度の運動(自分の身体に合った運動)を継続することなんですね。
2-2 運動負荷・量が大きい
これも先ほどの、ペーシングに含まれます。
ただ、大事な事なのでもう一度説明します。
運動負荷というのは「運動のしんどさ」や「力のいれ度合い」になります。わかりやすくいいますとダンベルの重さ「Kg」も負荷になります。
これもよくある失敗ですが、力を入れすぎる方が非常に多いです。
みなさん「自分が頑張ってしんどい事をしたー」ってなるまで頑張ってしまいます。
運動してるので頑張りたい気持ちはわかりますが・・
男性の方は特に重たい負荷(Kg)でされたがりますが、お分かりの通り、重すぎると関節や筋肉に負担がかかりすぎて痛めます。
もう一つ、「力を入れすぎる」です。これは伝わりにくいのですが非常に大切です。
分かりやすく例えますと、膝を伸ばす運動(大腿四頭筋)をしているのに膝だけでなく全身に力が入ってしまいう方です。
この運動を腰痛の方がしてしまうと腰痛を悪化させてしまいます。膝を伸ばすだけなのに100パーセントの力で全身に力をいれてしまいます。よって、腰の筋肉も過度な収縮をしてしまい、腰の筋肉、あるいは腰椎や椎間板に過度な負担がかかってしまいます。
今の例は、膝の運動なのに過度に全身の力がはいってしまう間違いですが、もっと細かくなりますと、ターゲットの筋肉の反対の筋肉にも過剰に力が入ってしまう場合です。
筋肉には関節を動かす「主動作筋」とそれと反対の役割を持つ「拮抗筋」があります。
例えていいますと、体を曲げる役割の「腹筋群」、体を反らす役割の「背筋群」があります。このように体の裏表に付着し拮抗しあって体のバランスを保っています。腰痛の方が腹筋を強化して腰を守りましょうって、腹筋をしたりしますが、この時、力を入れすぎて背筋も過剰に収縮させてしまい、主動作筋(腹筋)と拮抗筋(背筋)が過剰に引っ張り合い腰痛を悪化させてしまう事もあります。筋肉の引っ張る力はかなり強いんです。時には疲労骨折してしまうくらいです。
これも、思いっきり力をいれて運動を行わないと良くならない(効果がでない)と考えている方によくおこる間違いです。
これらの事は治療家、トレーナーの方も意識して自主トレのチェックをして頂ければ良いと思います。また、治療が上手くいっていない時に再評価して見直しますよね。その時に実際にされてる自主トレをチェックする事が大切だと思います。
2-3 痛みが改善してからおこす失敗
これまでは具体的な運動方法での失敗でした。
これからは気持ち(メンタル面)や日常生活で気をつけていただきたいことです。
慢性痛の方が運動して良くなってからおこしてしまう失敗です。
(例)膝が痛くて杖をついてもあまり歩けなかった方が運動をして段々良くなり、杖なしでも歩けるようになってきた。
→嬉しくなって杖をつかず、外出し、たくさん歩いた。→翌日、膝痛が悪化してしまい、また、歩くのがつらくなった。
これは、本当によくあります。
(例)腰痛がひどくて日常生活もままならなかったが運動をして日常生活が出来るようになり自信がついた。
→町内の清掃活動に参加し半日しゃがみ込んで草むしりをした。→翌日、腰痛が悪化し、動けなくなってしまった。
これもよくあります。
これらの事から分かる事は、良くなっても、過度な負担をかけてしまうと痛みは再発、悪化してしまいます。
一度、痛みがなくなったり軽減したりすると、もう完璧だ!治った!と、どうしても思ってしまいます。
慢性痛の方は変形性関節症などの疾患を持病としてお持ちの方が多いので、負担がかかりすぎると痛みは再発してしまいます。
日常生活での過度な負担を出来るだけさけるようにしておく事も大事です。
例えば、腰痛の方であれば中腰やしゃがみ込み、重いものを持つ、長時間の座位、立位などです。
しかし、どれだけ意識しても過度な負担を完全になくす事は難しいです。どうしても、しなくてはいけない状況が多々あるので・・
なので、ある程度痛みとお付き合いしながら徐々に身体をよくしていき、出来る事を増やしていきましょう!
非常に残念に思ってしまう事なのですが・・・(これは治療者側の意見になってしまいますが・・あくまで僕個人の感想です)
上に書いた例のように運動で痛みがよくなってから、何かの理由で痛みが再発されてしまうと、こちら(治療者側)の信頼を失ってしまう事です。
仕方ないと言えば仕方ないのですが・・
痛くなった理由をきいているとこちら側(治療者側)からすると、「痛くなってもしかたないな」と考えます。その場合、痛みの状態に合わせながら軽い運動からやりなおしていく必要があるのですが、痛みのある本人からすればこの治療院・病院にきてもなおらないって考えてしまい、来なくなる方がおられます。もちろん、新たに怪我を発症していたら別の話ですが・・・
このような場合、運動をして身体が良くなった経験ができたのに、再度、痛めてしまった事がきっかけで運動はだめだって辞めてしまわれるのは、非常にもったいないと感じてしまいます。その方にとって運動で身体が良くなった経験は継続する事で大切な財産になると思うからです。
まとめ
これまで、慢性痛の方が運動を行う上での注意点をかいてきましたがいかがでしたでしょうか?
大事なのはペーシングと、上手く身体(痛み)の状態と付き合いながら運動を継続していく事になります。
慢性痛の運動は専門家に診てもらいながら行う事がオススメします。
お近くでリハビリ施設のある病院や大学病院の痛みセンターでご相談されるのも良いと思います。