運動療法により改善効果が期待される病態
運動療法は、①高血圧、②糖尿病、③肥満、④ストレスに対して有効であると報告されています。
運動がどのように作用し、どんな効果が期待されているのかを、今後それぞれの病態ごとに解説していきます。
今回はその中から、①高血圧をピックアップしてご紹介します

高血圧症とはどんな状態か?
高血圧症の診断基準
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収縮期血圧(上の血圧):140 mmHg以上 
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拡張期血圧(下の血圧):90 mmHg以上 
※上の血圧・下の血圧とは、それぞれ収縮期血圧と拡張期血圧を指します。
血圧の正常値
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収縮期:120~129 mmHg 
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拡張期:60~69 mmHg 
高血圧とは、これらの診断基準を超える血圧が慢性的に持続している状態をいいます。
運動により血圧が正常化されていくメカニズムについて
運動は、血管・自律神経・ホルモン・腎臓・心臓など、さまざまな臓器や神経に影響を与えます。
それぞれの働きが刺激を受け、血管や体内循環量の調整が行われることで、結果として血圧が低下します。
以下では、運動によって体内で起こる主な3つの変化を解説します。
①血管内皮細胞の機能改善
血管内皮細胞とは、血管の内壁を覆い、血流や血圧の調整を行う“血管の司令塔”のような細胞です。
具体的には、①血管の収縮・拡張、②血液の流動性維持、③炎症反応の調整、④酸素や栄養の交換など、多岐にわたる機能を担っています。運動によって血流が増えると、血液の流れが内皮細胞を刺激し、**一酸化窒素(NO)**という物質の産生が促されます。
NOには血管を拡張させる作用があり、血管の内径が広がることで自然に血圧が下がります。
実際に、**池田正春ら(1993)**は、運動の継続が血管内皮機能を高め、末梢血管抵抗を減少させることで高血圧の改善に寄与すると報告しています(Journal of UOEH, 15巻3号, pp.227–236)。
つまり、
運動 → 血流量の増加 → NO産生の促進 → 血管拡張 → 血圧低下
という流れが生じるのです。
このように、運動を継続することで“しなやかで拡張しやすい血管”をつくることができます。
②自律神経を整える
運動を継続することで、交感神経の過剰な興奮を抑え、副交感神経の働きを高めることが知られています。
交感神経が優位な状態(緊張状態)では、心臓のポンプ作用が強まり、血管が収縮して血圧が上昇します。
一方、副交感神経が優位になると、心拍や血管のトーンが抑えられ、血圧は安定します。
**山内克哉(2020)**は、運動中に交感神経が一時的に活性化するのは生理的な反応であり、運動後に副交感神経が適切に働くことが血圧調整において極めて重要であると述べています(The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine, 57巻7号, pp.638–647)。
ホースを例に考えてみましょう。
交感神経が活発な状態は、蛇口を強くひねり、ホースをギュッと握って水を勢いよく出している状態に似ています。
この状態が続くと、ホース(=血管)に強い圧がかかり続け、やがて傷んでしまいます。
運動を続けることで、この「蛇口の開け閉め」をうまく調整できるようになり、自律神経のバランスが整っていくのです。
血管も対策をしないとどんどん硬く、ボロボロになっていくので、運動により自律神経を整えることも大切になります。
③腎臓と血圧をあげるホルモンを落ち着かせる
腎臓は、体内の水分量や血圧を一定に保つための“センサー”のような役割を果たしています。
血圧が低下すると、腎臓からレニンという酵素が分泌され、体内の水分を保持するために尿からの排出を抑えます。
さらに、アルドステロンというホルモンを介してナトリウム(Na)やカリウム(K)のバランスを整えます。
この仕組みは「RAAS(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)」と呼ばれ、血圧を上げる重要なメカニズムです。
しかし、運動習慣があるとこのシステムの働きが落ち着き、過剰な反応が起こりにくくなります。
結果として、血圧が自然と安定しやすくなるのです。
長期的な運動は、“センサー”の働きを落ち着かせ血圧を一定に保てるようにするために重要です。運動を継続することで、この“センサー”が過敏に反応しすぎないようになり、血圧を安定して保ちやすくなります。
まとめ
高血圧に対する運動の効果は、「症状の改善(治療)」だけでなく、「発症予防(一次予防)」にも及びます。運動習慣を持つことで血圧上昇を抑え、生活習慣病の発症自体を防ぐ役割を果たします。つまり、運動は血圧を下げる“薬”ではなく、血圧が上がりにくい“体質”をつくる自然な治療法なのです。当院では、運動習慣を身につけるための第一歩をサポートいたします。

血圧や心拍数などのバイタル管理、個別の運動負荷設定を行いながら、安全かつ楽しく続けられる運動プログラムをご提案します。
トレーニングだけでなく、身体機能・運動機能の評価や整体でのケアなど、幅広いサポートをご用意しております。
皆さまのご来院を心よりお待ちしております。

 
			






